第8回三重皮膚科専門医会講演会 2002年12月15日(日)
演 題
嗜癖的掻破行動 ~アトピー性皮膚炎からざ瘡まで~
講 師
小林皮膚科医院(東京都)院長 小林美咲先生
- 医学博士
- 日本皮膚科学会認定皮膚科専門医
- 日本東洋医学会認定東洋医学専門医
講演内容要旨
アトピー性皮膚炎は強い掻痒を伴うことが特徴であり、日本皮膚科学会による診断基準の第1項にも掻痒があげられている。
掻痒は掻破を誘発し、掻破は皮膚症状の悪化をもたらす。
アトピー性皮膚炎患者では通常の痒み刺激による掻破行為のほかに、情動と相関して自動的無意識的に起こり定期的に長時間繰り返されている習慣的な掻破行動の存在が認められる。
これは単に習慣を超えて嗜癖に相当するものであり、嗜癖的掻破行動と考えられる。
この行為によりアトピー性皮膚炎の特徴的な臨床的な症状の一部が説明されうる。
(1) 掻破行動の量的検討
アトピー性皮膚炎患者は驚くほど長い時間、掻破行動にふけっている。
アトピー性皮膚炎患者へのアンケートによると、1回の平均的掻破時間は5分から10分長時間掻くときの掻破時間は30分から4時間にも達している。
(2) 掻破行動の誘因
痒みを感じて、その部位を掻くのは当然見られる。
眠いとき、精神的・身体的ストレスを感じたときに掻破する。
先行する掻痒の自覚が無く、掻破を行っている場合が大部分の症例で見られた。
(3) 掻破行動の様式化
繰り返す掻破行動は疲れない、続けやすい、皮膚を傷めない等の要素を満たすため、共通化してくる。
具体的には爪甲・手指背面を使う、肘を体幹に付けて腕の重みを体に傾け、手首を回すようにすることが多い。
皮疹の部位 は掻きやすいところ,手の届く範囲に限局するため、掻破の関与した皮疹の存在部位は左右対称生に限局して分布し、かつ境界が明瞭になる傾向がみられる。
(4) 嗜癖的掻破行動の診断
「診断的皮膚所見」
■顔面頚部の所見
左右対称生の皮疹分布
眼囲の所見
- ・眉毛外3分の1の粗毛化
- ・内眼角下の斜め皺
- ・眼瞼(特に下眼瞼)の色素沈着
- ・耳後部の発赤、肥厚、色素沈着
- ・頚上部の長い横皺
■手の変化
掻破行動が繰り返される結果、道具として使われる手には共通した変化が認められる。
I 指に少なく、II からV指に著明な変化が認められる。
II からV指の爪甲がばら色に光る(pearly nail)。
爪郭や指関節背面の色素沈着と皮膚の肥厚(Knuckle pad)。
「問診のポイント」
- ・イライラすると掻く(情動的誘発)
- ・気がつくと掻いている(自動的)
- ・帰宅後などに必ず暫く掻く(定期的)
- ・掻きだすと止まらない(精神的依存)
- ・いつも同じように掻く(様式的)
以上の特徴を確認して診断を確定する。
(5) 治療の進め方
掻くなと言ってもムダである。 掻破行為を認識させず、皮膚だけを治療することは嗜癖的掻破行動を強化してしまう。- ・掻破行動の認識(習慣的な掻破行動自体が病的である事の認識)
- ・掻破行動の自覚(掻破行動ノートの記録)
- ・掻破行動の抑制(行動変換と新しい習慣)
- ・行動変換:両手を組む,息を長く吐く。
- ・新しい習慣:定期的通院,毎日の薬剤の外用,掻破行動ノート
(6) 子供の治療
- *子供のアトピー性皮膚炎患者にも嗜癖的掻破行動はよく見られる。
- *母親に対する共感的なサポートと指導が大切。
朝:はやくはやくと言わない。
夕:大きな声を出さない。
夜:夕飯食べたら働かない。 - *子供の栄養はスキンシップと甘い言葉である。
- *命令,指示はコミュニケーションではない。
- *子供に語りかける言葉をネにする。